オシリスが語るもの

ギザの3大ピラミッドの配置はどうしてあのようになっているのか、さまざまな議論はあると思いますが、私としては、オリオン座の三ツ星説はとても説得力があると思います。何の文字も像も残していない、沈黙するだけのギザのピラミッドが、唯一何かを語っているかのように見えるのです。

星座のオリオン座には、よく目立つ「三ツ星」があり、伝説の勇者オリオンのベルトの位置にあります。この三ツ星、よく見るとまっすぐ並んでおらず、しかも片側の一つの星は実はかなり暗いということがわかります。三ツ星説においては、この暗い星に対応するのが、メンカウラー王のピラミッドということになります。もちろん、星座と全てが厳密に対応しているわけではないです。それでも、大ピラミッド群の配置が、オリオン座の三ツ星の配置と光量を示唆し、象徴していると考えるのが三ツ星説です。

じつは、このオリオン座と古代エジプトには、もともと深いかかわりがあり、「オシリス」と呼ばれる神がオリオン座と同一視され、オシリスの化身とされていました。このオシリスは、「死」「再生」「復活」「豊穣」などを司る、エジプト神話の重要な神です。神話のストーリーとしては、エジプト王として君臨したオシリスはある時、弟のセトに殺害され、体をバラバラにされ、ナイル川に捨てられてしまうのですが、妻のイシスがその体を集め、復活させて冥界の王となったとされています。

古代エジプトの王は、死後にオシリスになるとされたため、王墓とされるギザの大ピラミッド群も、オシリスやオリオン座と関連していると考えられています。これが一般的によく知られた理解の枠組みだと思います。これは確かに筋が通っていると思うのですが、ここではさらに、オシリスの意味するものについて、さまざまな可能性を考えてみたいと思います。

まず、オシリス神の司る「再生」や「復活」は、毎年起こるナイル川の氾濫により「死」と「再生」を繰り返す、エジプトの大地の営みと関係しているとされています。本来は、農業とも関連する植物神であったとも言われているようです。この地に暮らす人々にとっては、命や生活に関わる自然サイクルです。そのような変わることのないサイクルや法則、つまりオシリス神と一体化を示すものとして、ギザ台地の三ツ星を造営したのかもしれません。そうすることで、安定と豊穣を期したことになります。

もう一つ、オシリスの「再生」や「復活」といったフェーズに注目すると、別の意味合いも出てきます。オシリスの衝撃的な、痛ましい物語は、例えば、「国」や「文明」といった、大きな規模の歴史と重ね合わせることができます。かつてあった一つの国や文明が衰退・崩壊し、その後に再生・復活を遂げ、姿形を変えて存続するという壮大な物語。それは、伝えられているオシリス神話のメッセージそのもののように感じます。この場合ギザ台地は、建造した国や文明の、未だ語られていないかもしれない、長大な歴史の存在を暗示していることになります。

上の二つのストーリーは、神話の意味合いから、三ツ星構成のあり得る背景として私が感じているものです。オシリスの「再生」は、自然の循環としても、文明史の循環としても読むことができるものです。ギザ台地の三ツ星構成は、そのような循環を、 「天と地の対応」として固定化するプロジェクトだったのかもしれません。これ以上ないほど大規模なギザ台地の「オシリス」は、当然ながら、当時の人々の世界観と非常に深く関係しているはずです。当時の技術と人員で、ここまでする理由は何なのか――当時の人々が求めていたものを、冷静に考えていきたいと思います。

次は、そのギザ台地の入り口に座るスフィンクス像や、その付近の神殿などについて考えてみたいと思います。